〈わたしの森について。-山形の芸術家たち2018〉
2018年09月01日〜2018年09月30日
美術館|ワークショップ・展覧会
森は、そこに生きるものにとって、命の源であり、生業であり、家である。
森という文字が3つの木から成るように、本展は3人の作家による展覧会である。
1本1本の木が大地に根ざし、枝を伸ばし、葉を茂らすように、3人の作家は、1人1人がこの土地に命脈を保ち、個性的な創作活動を続け、多様な作品を生み出している。
それは、遠いところの誰かの作品ではない。あなたの身近なアーティストの作品である。
作品がかたりかけてくるものも、何か特別なものではない。
―わたしの森について。
それは、この土地に息づく、わたしたちの生命について、生活について、家族について、である。
山形が育んだ3人の作品を観ながら、あなたの「森」について思いを巡らせてほしい。
喜田真吾(まなびあテラス総合プロデューサー)
〈わたしの森について。-山形の芸術家たち 2018〉
会期2018年9月1日[土]→9月30日[日]
会場:まなびあテラス市民ギャラリー B,C,D/入場無料
開館時間:9:00~18:00 *9/10(月)と9/25(火)は休館
主催:まなびあテラス 制作協力:NHKプラネット、宮本武典、杉の下意匠室
■出展作家紹介
原田圭 Kei Harada
《腸人間》(部分)2015 パネルに膠、石膏、顔料
―わたしは、何かとつながりたくて、山を歩く。わたしの体をひっくり返したら、山みたいなかたちをしていると思う―
原田圭の《腸人間》。幅4メートルの大作だ。これはいわば、彼女の心体地図である。表皮をはいだ自画像に近い。山を歩いた時の身体感覚をイメージ化しようと、何枚も描いていきついた、記憶の想起術なのだ。
東根育ち。幼い頃から祖父の畑仕事や山の落ち葉拾いを手伝った。学生時代は、大学裏の竜山へ。山へはいつも一人で登る。山麓の森を肌身に感じ、写真を撮り、スケッチし、家へ戻り、忘れないうちに素描を描きためる。山で見たものを描くのではない。生身の自分の神経網が山で目覚めざわつく様子を、剥き出しの絵地図に見立てる。彼女には、表皮をまとっている感覚がないのだという。原田のアプローチは、この心体地図と、画面に厚く立体的に石膏を盛り付けるモデリング技法、この二つだ。
私たちは心臓の位置を指差し、自分の心はここにあると言う。その比喩を、原田は全身にあてがったのだろう。ダ・ヴィンチは、人体表現を極めるため、死体を解剖させ筋肉や心臓の構造をスケッチした。原田の探求ぶりはそれに近い。15世紀ルネサンスの人間探求の流れと重なってみえ、古拙的である。
《腸人間》は、心と体、自分と世界、イメージと行為を一体化しようとする原田の足跡を示している。国内平面作家の登竜文として名高い「VOCA」出展の意欲作。描かれた「感覚の森」を、見るものは歩かされることだろう。
原田圭/Kei Harada【プロフィール】
画家。1987年山形県東根市生まれ。東北芸術工科大学大学院洋画領域修了後、東京藝術大学油画技法材料研究室で古典技法を習得。主な個展に「腸人間の瞬き」(2014/fuma contemporary art)、「搔き分ける人」(2016/KUGURU)。アートアワードトーキョー丸の内2014、VOCA 2015(上野の森美術館)に選出される。
ブルーノ・ピーフル Bruno Pifre
photo by Isao Negishi
日本の陶芸に魅せられ来日し、益子での修行を終えた後、家族とともに大石田に移り住んだ。自宅の庭の一角に工房とともにしつらえた薪窯は、巨大な芋虫のような形をしている。作品は日々つくりためられ、年一回の窯焚きで焼成される。火が入れられた窯は、生命をもったいきもののようである。
ピーフルの作品は多岐に渡る。動物や、あるいは想像上の生き物の姿をした作品たちは、オブジェとしての陶芸だけでなく、一輪挿しやコーヒーカップ、水差しといった実用品である。ユニークな見た目の作品だが、生活に取り入られるものであることに、作家はこだわりをもっている。
ピーフルの作品は、作家からの問題提起である。今回新作として発表する作品たちも、反原発を唱えたものなど、社会に関する事柄がテーマである。ピーフルがひとつひとつの問題に向き合い、感じ、考え、訴えたい想いが作品に込められている。これらの新作はすべて「屋根飾り」として制作される。住居のための装飾品が、ピーフルの手によって生み出されたとき、そこにはどのようなメッサージが込められているのだろうか。
本展では、新作に加え、根岸功による作品写真も展示。30年余の大石田での生活を通して作り上げてきた、ピーフル作品の魅力と、そこに込められた想いを伝える。
ブルーノ・ピーフル/Bruno Pifre【プロフィール】
陶芸家。1957年フランス、ル・マン生まれ。フランス・シャルトルのPoteries Du Maraisでの修業を経て、1980年に来日、栃木県益子の陶芸家・島岡達三氏に師事した。1985年、北村山郡大石田町に窯を築く。以後30余年にわたって大石田町で作陶をつづけ、国内各地で個展の開催・グループ展への出品をおこなう。
山川雄大 Yuta Yamakawa
《母.3》2018
山川は山形の地で数々の物語を生み出しているが、その絵本作品は独特の世界観に満ちている。今回は、樹齢1500年ともいわれる巨木「東根の大ケヤキ」を題材にした最新絵本作品の原画を展示。やわらかな曲線とやさしい色合いで綴る物語世界が繰り広げられる。明治時代初期には、「雌(はは)ケヤキ」と呼ばれた大ケヤキ。「ただそこにそびえ、在り続けることで、ぼくらを守っているかのようです。扇状に枝葉がのび、それが手となり胸となり、ぼくらをおおきく包んでくれている。まるで母親のようだ、と思いました」作品は、主人公の“ぼく”が母親のようなひとを探して旅を続ける、4つの物語から構成される。森や木々に、人には見えないなにかが潜む。“ぼく”がたどり着く場所は…。
山川が綴るゆっくりと流れるような言葉は、現代に生きるわたしたちに忘れかけていたものを思い出させてくれる。「ここに住んでいると、日常的に山が目に入ってきます。山は僕にとっての、間違いのないものです。明確で明瞭で、常にそこにあるものです。渡り鳥が北極星を目印にして飛ぶように、僕は山を目印にして生活しています。何かが、変わらずにそこにあり続けるというのは、生きるうえで、大切なことのひとつのような気がします」
山川 雄大/Yuta Yamakawa【プロフィール】
絵本作家。1986年山形市生れ。東根市在住。山形県立東根工業デザイン工学科卒業。家具製造会社に勤務しながらイラスト、手づくり絵本、紙芝居などを制作・発表している。 2016年11月、まなびあテラス開館記念パフォーマンス《東の根の音》では、全長30メートルに及ぶ「根っこ」のクレヨン画を3日間に渡り描き続けた。
【関連ワークショップ】
①『我が家の屋根飾りをつくろう』 講師:ブルーノ・ピーフル
ブルーノ・ピーフルさんと一緒に、陶器でミニチュアの屋根飾りをつくります。
日 時:9月8日(土)14:00~16:00/場 所:アトリエ
対 象:小学生以上/定員:16名/参加費:1,000円
※焼成のため、お渡しは3週間後になります。
②お面を作るワークショップ『森の住人をつくろう』 講師:山川雄大
それぞれ心の中にいる“森の住人”を想像しながら葉っぱや、石コロ、草を使ってお面を作ろう。
日 時:9月9日(日)13:00~15:00/場 所:アトリエ
対 象:どなたでも/定 員:10名/参加無料
※要予約。電話(0237-53-0229)まなびあテラス総合案内カウンターまで直接お申込みください。
同時開催
●まなびあテラス×山形ビエンナーレ2018連携企画展
ミロコマチコ 「あっちの耳、こっちの目」
会期:2018年9月1日[土]→9月30日[日]
会場:東根市公益文化施設 まなびあテラス 特別展示室/入場無料
開館時間 9:00~18:00 *9/10(月)と9/25(火)は休館
主催:まなびあテラス
制作協力:東北芸術工科大学(山形ビエンナーレ事務局)、kanabou、NHKプラネット
企画:宮本武典(まなびあテラス芸術監督)、協力:穂積繊維工業株式会社
https://www.manabiaterrace.jp/event/art-gallery/mirokomachiko/